お客さまから問い合わせがきたときは
冷静さを失わずに!
会社の営業部の電話は、だいたいは当方からアポ入れなどで架ける方に使われており、電話が鳴るというのは非常に少なく、あっても支社からの報告程度です。
しかし、ごく希にお客様の方からエリアを指定された上で「物件はまだ残っていますか」というお問い合わせの電話を頂くことがあります。
こうした事態はめったにないことなので、営業部全員が浮き足立ってしまい、上司でさえ声が震えて冷静な対応をするのが精一杯という感じになるほどです。
電話である程度の条件を聞いてそれに見合う物件をいくつかピックアップし、「すぐに今からお伺いして説明させて頂きたいのですが」ということになるのですが、さすがに夜の7時で先方の企業も終業時刻を過ぎています。
おそらく重役会議が長引いて当社に決めるかどうか最終決定が遅くなったものと推測されます。
翌日あらためてその企業を訪問し、ひとつひとつ物件の説明をすることになりますが、もうほぼ契約になることは見えている案件です。
それゆえに、精神状態は余裕かといえば、実はそうでもありません。
ここで何か粗相があって、契約はご破算などということになってしまったら大変なことです。
説明する上司の声がここでも上ずって、指先まで震えています。
本当にこんなことはめったにないので、営業部ともあろうものが、急なお客さまからのアプローチに慣れていません。
いつも、こっちから押して、押して、また押して3年くらいかけてやっと決めてもらうという契約ですから、このような棚ぼた式の案件では冷静さを失ってしまうのです。
お客さまへの「ご挨拶」
お客さまとしては、電話であれこれ説明されるより、実際に来社して写真や図面を広げながら詳細に説明した方が良いに決まっています。
前夜は夜の7時にかかってきたのですが、先方がOKならばすっ飛んで行ったところです。
そして、帰社はおそらく日付がかわる頃になったでしょう。
営業部は常にそんな心構えで、「いつでもどこでもお客さまのところへ」をモットーに営業活動を進めています。
先方が契約する前提であるとしても、ここで気を引き締めなければなりません。
いつもの駄目元からスタートするときの必死さはそのままに、メリットもデメリットもすべてさらけ出して、「当社が自信をもって推薦するのはこの5物件です」と、お客さまが比較検討しやすいように選択肢を挙げて、後日それぞれのスペックの比較表を作成していくなど、お客さまが決定しやすい状況をつくる必要があります。
これは、棚ぼた式とはいいながら、やはり日ごろの営業活動の成果だといえます。
まったく購入する気配がなく、ノーマークでEランクに分類していた企業ですが、1ヵ月に1回の特に用事はないが「ご挨拶」の営業を継続していた賜物です。
ただ、この一件でこちらが訪問して説明しているときはあまり乗り気でなかったのに、自分たちで検討するときはするのだということがわかりました。
必要になれば、向こうが自主的に会議を開いて決めているということです。
だからといって、何もしなくていいのではなく、毎月1回の定期訪問をやっていたからこそ、電話がかかってきたのだと信じています。
全ての問いにバッチリ回答できるようにしておく
営業は最初に断られても諦めずにアタックを繰り返すと、いつか実を結ぶということを実感させられる出来事です。
お客さまの方としても、電話をしたら総務部が喜ぶのを予測していると思われるので、こちらがあまりに冷静すぎて平常心なのもどうかと思われます。
お客さまが電話をかけてきてくださったことに対して、素直に感謝の気持ちを出してもよいのではないでしょうか。
心臓がバクバクして声が上ずってしまっても、それをあえて隠す必要はありません。
それこそ電話しながらお辞儀を何度もするというあのスタイルで構わないのです。
詳しい話は訪問してからということになりますが、そのときに持参する物件(商品)については、しっかりとオーダーを聞いておかなければなりません。
「帯に短しタスキに長し」な物件ばかり持っていっても、そこで重たい空気になってしまいます。
条件をしっかり聞いて、最上級の物件を5つぐらいチョイスしなければならないので、やはり「今すぐ飛んでいきます」はやめておいて良かったといえます。
24時までの時間は、相手先企業にプレゼンする物件をこちらがピックアップする時間にしなければなりません。
そして、万全の準備をしていよいよ本番です。
お客さまの方もいつもの定期訪問の雑談とは違い、真剣そのものですから、矢継ぎ早に次々と質問が飛んできます。
億単位の大きな買い物なので、失敗は許されません。
微に入り細にわたって水道や電気などの供給ラインや、車の出入口さらには周辺の治安状況などまで聞かれますが、それらもすべてバッチリ回答できるようにしておく必要があります。
検討しているお客様の角度を図ろう!
ただし、焦りは禁物であり、「今決めないと別のお客さまもここを良いと言っているんです」などという駆け引きみたいなことを言うのは感心できません。
ただし、それが真実ならば言っておかないと明日にでもその企業から電話が入ってくるかもしれないし、その企業に仁義を切るために、「この物件は今交渉中であり、間もなく契約に至るであろうこと」をお伝えしなければならなくなります。
そのような競合している企業がないのであれば、契約を急がせるような言動は控えた方が良いでしょう。
じっくりと検討してもらって、まだまだ質問するべきことがこれから次々と発生してくると思われるので、慎重に決定できるように、しかも良い買い物ができるようにこちらも全力でサポートすることを心がけます。
お客さまは、1社だけではなくいくつものライバル社の物件も紹介してもらっているはずです。
もちろん、その時は「検討中です」という雰囲気は出しません。
しかし、このとき注意しておかなければならないのは、何か質問があった場合です。
いくら検討中であることを隠そうとしても、気になる点は聞いてくる可能性が高くなります。
本当に検討中ではない場合は、こちら側のプレゼンを一方的に聞いているケースがほとんどです。
しかし、プレゼンの最中に先方が、その物件について何か質問してきたときは、要注意です。
質問をするということは、物件を探している「検討中」である可能性があります。
お客さまは、いきなり契約したいとはいわず、まずは「お問い合わせ」という形でアプローチして来られることが多いのです。
まず真っ先に返事と相づち!
情報をメモに残す重要性
交渉の場は、キャッチボールと同じです。
会話のキャッチボールです。
相手が投げてきたボールをしっかり受け止め、また相手の受け取りやすい胸元へ返してあげなければなりません。
いつまでもこっちでボールを持ったまま、モタモタしていると、相手はイライラしてきます。
スムーズなキャッチボールを続けられるためには、日ごろから練習をしておくことが大事でしょう。
お客さまはご自分のペースで構いませんが、こっちは滑らかな動きでスピーディに返球できれば合格です。
そのためには、日ごろからいろいろな話題を集めておき、引き出しを多く持っておく必要があります。
会話の途中で沈黙にならないための対策です。
お客さまが話をしている最中は、途中で話を遮ることなく、すべて話し終えてもらいましょう。
その間は、適度に相づちをいれながら、しっかりと貴重な情報を漏らさないように頭の中にメモしなければなりません。
お客さまが話をされている前で、実際にメモ紙とペンを出して記録しようとする新人がいますが、これはアウトです。
人は話をするときに、相手からメモ紙やペンを出されると急にトーンが落ちて口数も少なくなってしまうものです。
余計な事をしゃべってしまって、それを記録されてしまった場合に、その情報が部外秘であった場合など、その役員の立場がなくなります。
お客さまが話してくれていたかもしれない貴重な情報を、紙とペンが出てきたばかりに、話せなくなってしまうケースもあるのです。
相づちを打ちながら、しっかりと頭の中にメモしていかなければなりません。
これには2~3年の修行が必要です。
すごい営業マンだとほぼ録音テープ並みに記憶して、帰社後に文章に起こすことができます。
そのために、2人体制で訪問するのです。
1人は喋り役で、もう1人は相づちを打ちながら話を頭の中に録音する役です。
こうして、相手から貴重な情報を聞き出し、今どんな段階であるのかを予測します。
貴重な話の中には、他企業の情報も入っていることが往々にしてあるので、その情報は当該企業のファイルの中にも挿入しておくことを忘れないようにして、すべての情報を管理する必要があるのです。
重要な情報とそうでもない情報の選択
どこの業界も同じで、重要なのはお金よりも「情報」といわれています。
面談が終了してその企業の出口ドアを出たら、すぐにカバンからノートを取り出し、今頭から溢れんばかりになっている役員の言葉を殴り書きしていきます。
短期記憶に残っているうちに、駅までの道中歩きながらひたすら記憶したことを書き殴っていきます。
帰社してからでは、50%以上は忘れているでしょう。
帰社してからは、ノートに殴り書きをした内容をパソコンに入力してプリントアウト。
営業部内で情報共有します。
こうした作業を1人で企業訪問したときにやるのは大変です。
喋り役と相づち役と頭の中の記録役の独りで3役こなさなければならず、話も完全に頭に入れることは不可能です。
そんなときは、役員が発言した中の重要事項だけをしっかり記憶するように切り替えます。
重要な情報とそうでもない情報の選択を行うのです。
これも非常に高度な技であり、1人ですべて行っているので書き出した情報も主観的になっている可能性があります。
したがって、情報共有する前に、もう一度それが確かに役員の口から出た正確な情報であるのか確認して、どうしても自信がない場合はその旨付記するか、いっそのこと削除した方が良いでしょう。
別の営業マンが読んだときに勘違いして情報が独り歩きしてしまったら大変です。
相手先企業の渉外担当者にもいろいろな人がいて、あまりお喋りが好きではない人もいます。
面談には応じてくれるのですが、こっちがひたすら喋らなければならない場合です。
そんな時に有効なのは、こちらから質問することです。
それは、チャンスでもあります。
相手の状況を判断する難しさ
向こうが喋らない分こちらが喋ることができるわけですから、ところどころで、質問を挟んでみることです。
さらに、相づちと同様に面談の際は、笑顔も必要になります。
相手も冗談を言ったりしますから、それに対して素直に笑顔で笑い合う瞬間も大事です。
一笑いした後が大事で、ついホッとして沈黙になりがちな危険があります。
笑いながらもその次の話題に頭を巡らせておく必要があります。
このように、電話でも面談でも、営業マンは常に頭をフル回転させている状態であり、ホッとするのは相手先企業の社屋を出てからです。
それから、相手先企業の渉外担当者が、お喋り好きな人であった場合、話の途中で「はい、はい」と相づちを入れすぎるのも気を付けなければなりません。
相づちは、適切な間隔で相手が喋りやすいように上手く入れることが本当の聞き上手です。
面談の場でいきなり社長が出てくるケースもあります。
それも作業着で他の従業員たちを一緒になって作業をしているところをお邪魔することもあります。
すると、社長の方から「こんな格好ですみません」と言われることが多いので、そのときは「はい」の相づちではなく、社長自ら社員の中に入って一緒に油まみれになっている姿に、感動したという旨の表現が適切かもしれません。
社長というのは、普段はスーツを着てデスクに座って資金のやりくりなどの調整仕事をしていることが多いですが、従業員と一緒に頑張っていることもアピールしたいのです。
もしくは、社長まで一緒に作業しなければならないほどにうちは余裕がないのですということをアピールしている可能性もあり、どっちの主張であるのかは一概には言えません。
したがって、あまり深入りしたコメントは避けた方が無難でしょう。
2人1組で訪問している際に、聞き役かつ脳に記録する役に徹していたら、いきなりその黙っていた方の営業マンに質問や同意を求める社長もいます。
そんなとき、あまりに社長の話を記憶することに集中し過ぎて、相づちが遅れるようでは営業マン失格です。
したがって、黙っている方の営業マンも大変なのです。
聞き役と話を脳に記録する役とたまに飛んで来る同意を求める社長の声に、ジャストタイミングで相づちを返す役もこなさなければなりません。
営業トークは、キャッチボールであり、ボールを落とさず長く続けることに意味があるのです。
お客さまの質問は必ずオウム返しで復唱、聞き返し
お客さまの勘違いが発生しやすい質問を聞き分けよう!
お客さまから受けた質問に対しては、その真意をしっかり把握して答える必要があります。
お客さまは、その業界の専門家ではないので、質問されたフレーズをそのまま受け取って、こちら側で一旦咀嚼することなく返事をしてしまうと、実はそういうことを聞きたいのではないと言われることはよくあることです。
その瞬間に答えた店員からお客さまの視線は外れ、別の店員の方に移ってしまうでしょう。
自分の言いたいことを即座に理解してもらえなかったという思いを、お客さまにさせてしまうことになります。
したがって、お客さまの質問は必ずオウム返しで復唱するようにして、そうする途中でお客さまの言い間違いではないかと思われる箇所を微調整しながら、聞き返すようにすると、恥をかかせることなくスムーズに会話が流れていきます。
言い間違えたお客さまも、自分で気付くでしょうが、それは大したダメージとはならず、むしろ正しい解釈をしてくれて自分のつたない質問を修正してくれた上で、回答してくれたと感謝されることと思われます。
お客さまの方から質問してくださるというのは、非常にありがたいことです。
関心が無ければ質問も発生しないのであり、関心を持って頂いた質問には真摯に回答するようにしましょう。
質問が連続した場合は、短く簡単なものまでオウム返しで復唱するのではなく、お客さまの勘違いが発生しやすい質問を聞き分けて、オウム返しに復唱するように臨機応変に対応することが肝心です。
これが電話の場合はまた少し事情が変わってきます。
カフェで注文を取る時に起きた実例
連鎖的ヒューマンエラー
直接対面していないので、余計に誤解が生じやすいのです。
したがって、電話による応対の中で質問が複数出た場合は、ひとつひとつ確認した方が良いことが多いでしょう。
電話機を通しての会話は、不安定になりがちです。
ちょっと変わった名前だとなかなか相手に伝わらず、途中で諦める人もいるほどです。
電波に乗った音声ですから、いくつも電波が交差していて声が割れてしまうのでしょう。
電話で注文を聞き間違えたとか、美容室の予約の日を間違えたとか、電話で1回しか確認しなかったために発生するトラブルは数多く見受けられます。
電話応対の場合で相手が高齢者である場合は、そもそも質問している商品自体の名称を見間違っている可能性もあり、受話器を挟んだお互いの認識の違いのリスクが非常高くなるため、かなり気を配って確認しなければなりません。
聞き間違い・思い込み・確認不足からミスの連鎖が発生することがあります。
例えば、珈琲店でホット・ココアを注文したとします。
そして、店員はそれをホットコーヒーだと思い、「ホットですね」と注文を繰り返しました。
ここでは、注文の復唱というルールはきちんと守られていますが、客には一抹の不安が残ります。
そして、その店員が厨房に向かって「ホット」と叫んだとき、別の店員が「あの人はいつもホットラテだから」といって、勝手にホットラテに替えられてしまいました。
そして、運ばれてきたホットラテ。
しかし、頼んだのはホットココアです。
ホットココア→ホットコーヒー→ホットラテと3人の人間の間で変化しています。
連鎖的ヒューマンエラーです。
1人は気を使ったつもりですが、さらに間違ったオーダーに変わってしまいました。
これは誰が悪いのかというと、みんな悪いといえます。
まず、店員がオーダーを聞いた際に「ホットですね」と復唱しましたが、そこで「ホットココアです」とハッキリ客が訂正すべきでした。
また、その店員もホットの後に何か聞こえたはずですが、コーヒーと決めつけたのではないでしょうか。
ここは珈琲店だからほとんどはコーヒーを注文する、だから本当はハッキリ聞こえなかったけれどコーヒーということにして大丈夫だろうとでも思ったのでしょう。
そして、さらに畳み掛ける事件が発生します。
いつもその客が来ていることを知っている店員が、ホットコーヒーであるはずはないと判断。
それを客に確認することを怠り、勝手にラテに変更して持ってきたのです。
修正するポイントはいくつかありました。
まず、最初のオーダーの時点で、店員が「ホットですね」と言った時点で放置せず、「いえ、ホットココアです」というか「ココアです」というべきであったということです。
しかし、これを販売会社がお客さまに「あなたが訂正しなかったから間違ったままだった」とはいえません。
ひとつひとつの作業を心を込めてしっかりと!
では、その店員に原因があったといえるかという問題ですが、注文を復唱していますが、復唱した意味がありません。
なにせハッキリ聞こえなかった後半部分を予測で乗り切ってしまったのですから。
そして、その店員に「あの人がいつも注文しているのと違う」と言った別の店員ですが、客の観察眼は一流なのでしょう。
しかし、もう一度客のところまで戻って再確認するという作業を怠ってしまった。
気がついたまでは良かったのですが、その後の行動が失敗でした。
そのせっかく気付いた店員は、客のところまで行って「ホットラテですよね?」と確認するべきでした。
しかし、そこでも間違っているので、また恥の上塗りにはなりますが。
このようないい加減な復唱・思い込み・確認を怠るといったトリプルプレーの間違いは、飲食店以外でもどこの職場でも発生する可能性があります。
これは、対面でのやり取りで発生した驚くべきミスと怠慢の連鎖ですが、「電話」を介するとなるとこうしたリスクが格段に跳ね上がるものと容易に推測できます。
いずれにしても、客商売であるし、客は語尾がはっきりしなかったかもしれませんが、きちんと間違いなく注文しています。
思い込んだり、確認を怠ったりしたのは店側です。
お客さまを責めることはできないでしょう。
店員は復唱することの意味をわかっていなかったのでしょう。
ひょっとしたら、お客さまの質問などをオウム返しで復唱したとしても、相手が高齢者である場合などこれと同様のミスが発生するかもしれません。
ミスが起こる危険はどこにでも潜んでいることにいつも注意して、できる限りのミス防止に努めるようにしなければなりません。
また、これはお客の注文を復唱するというマニュアルが形骸化してしまっています。
オウム返しで復唱するというマニュアルがあったとしても、いい加減な復唱では意味がありません。
ひとつひとつの作業を心を込めてしっかりと行っていきたいものです。
「ほかにもございませんか」の愛ある踏み込んだひとことで万全
自社商品について勉強しておこう!
大きな買い物になればなるほど、購入する前に確認しておきたいことはたくさんあるものです。
しかし、中には、販売する側に気を使ってたくさんある質問の中からいくつかピックアップして質問するという控えめなお客さまもいます。
しかし、十分に納得した上で購入してもらうためには、質問し倒してから購入しないと後で大損してしまう危険性があります。
特に不動産などの場合は、多額のお金が動き、間違えてしまったら取り返しがつきません。
もう販売側に遠慮などせずに、バンバン聞きたいことが完全に無くなるまで聞き倒すことが大事です。
一方の販売する側としては、正直あまり質問されたくないのが本音です。
けっこう予想もしていなかった質問があり、そこまで勉強していないケースもあるからです。
しかし、お客さまの利益を第一に考えるのならば、遠慮しているお客さまのことも考えて「ほかにはございませんか」の一言は大事になってきます。
たとえお客さまの方に質問がなくても、この一言をかけられるだけで、販売する側に聞けば何でも知っている・余裕があって器が大きい・こちらに配慮してくれているといったことを感じるようになります。
知識に自信がないとなかなか出て来ない言葉なので、このフレーズが自然と出てくるくらい、自社商品について勉強しておく必要があるということです。
お客さまからの質問がわかりにくく、オウム返しで復唱して聞き返すことも幾度もあり、ようやく解決したという時点で本当はもう電話を切りたいのが本音ですが、そこで踏み込んでこの一言をいうことでお客さまの信用を得ることができます。
また、「ほかにもございませんか」という言葉は、今後のアフターケアに関しても、何かあったら何でも言ってくださいという、お客さまを大きく包み込むような包容力を感じさせます。
ひとつの質問が終わったらさっさと電話を切ろうとする担当者もいますが、そんなときに限って購入者側には実はもうひとつ聞きたかったけれど、しつこいと思われるのが嫌で遠慮してしまったというケースもあります。
小さなミスが大きな機会損失を生む
ケース その1
従業員と同じ作業着を着て、現場に出て一緒に作業をしている社長が、いよいよ本気になり我が社の物件を視察に来てくれることになりました。
視察する物件も複数ある上、ちょっと遠いとエリアになるため、1泊2日で視察することになり、当社はその地域では有数の高級旅館を予約しました。
社長は奥様と2人で視察に来られて、丸一日かけてじっくりと物件を視察し、いよいよ今夜の宿泊先へご案内することになり、ここからが若手営業マンの出番になります。
旅館まで送迎する車の中で今日みた物件に関して聞き忘れていた質問をいくつか解消し、この周辺の街に関する話もしながら旅館に到着。
明日のお迎えの時間も確認しました。
そこで、社長夫婦には一番質問したいことがあったはずです。
それを若手営業マンはわかっていました。
それは「この高級な旅館の宿泊料金は誰が払うのか?」という問題です。
社長夫妻が選んだわけではなく、物件紹介した販売店側が選んだ宿泊先で、果たして社長がそんな高級旅館を希望していたのかどうかはまったくわかりません。
聞かずに勝手に判断して、社長だから地味な旅館より地元で一番高級な旅館が良いだろうと思い込んで勝手に予約していたのです。
社長夫婦は、そんな豪華な旅館に連れて来られて、戸惑っていたのかもしれません。
そして、「ここの宿泊代はどうなっているのですか?」という質問をしたかったはずなのですが、それを肌で感じていながら、若手営業マンは旅館での別れ際に「ほかにもございませんか」の一言が出ませんでした。
なぜなら、そこの旅館の支払いは、社長夫婦が自分ですることになっていたからです。
宿泊代までは販売店側の視察予算には入っていませんでした。
倹約家の社長夫婦が一番気になっていたこと、勝手に予約してしまった営業マンが一番触れて欲しくなかったことをお互いが避けて旅館で一旦お別れするということになったのです。
翌朝社長夫婦を迎えに行ったときは、「昨夜はよくお休みになれましたか」と聞いて、返ってきた言葉は「はい」の一言だけで、「良い旅館でした」とか「ここは料理がおいしい」とかいった感想は何もなく、会話事態がほとんどありませんでした。
一番言いたくなかったことを避けた結果、その物件を社長が契約してくれることはなく、近くでライバル社が販売している物件を購入されました。
ケース その2
ここでも営業マンのミスがいくつか存在しています。
まず、社長や上司に相談することもなく、「社長だから高級旅館に泊まる」という思い込みから勝手に予約を入れてしまったこと、上司たちは物件の質問への回答に万全を期すあまり宿泊先にまで気が回っていなかったことなどです。
そして、一番問題なのが旅館の予約をした営業マンです。
いろいろな確認をして質疑応答もやったのに、一番気になっていたことを社長に答えるのが怖くなって「ほかにございませんか」の大事な一言を言えず、自分から質疑応答を打ち切ってしまったのです。
せっかく昼間は充実した視察が行われたのに、最後の締めともいえる段階になって肝心の言葉が出ず、翌朝社長夫妻は予想だにしなかった高額な出費を強いられたのです。
そのショックは想像するに難くないものがあります。
勝手に高級旅館に連れて来られて、翌朝出発しようとしたら高額の宿泊料金を取られた、「もしかしたら」とは思っていたことでしょうが、「まさか」とも思っていたことでしょう。
その「まさか」が現実になってしまったのです。
これは、その若手営業マンだけのミスというより、販売する側の企業全体としてのミスであると考えます。
お客さまのすべての行程に配慮して同行する社員全員で確認するべきであったということです。
社長も新幹線代くらいは頭にあったでしょうが、まさか宿泊代で2人で十数万円も払わされるなどとは思っていなかったはずです。
一番大事なことを言ってくれないような会社とは、契約はできないと思うのが当然でしょう。
物件を売ることだけに注意が偏ってしまい、本丸とは関係のないところで大失敗を犯してしまった、悔やむに悔やみ切れない事例です。
最後に
たった「3秒」の時間での分岐
商品を販売する側の思い込み・確認の怠り・言いにくい大事なことを言わないのは、働く人間にとってはどこにでもありそうなミスです。
しかし、ほんの「3秒」あったら、その「3秒」の言動をしていたら、解消できたミスです。
それができないのもまた人間の弱さなのでしょう。
その3秒の行動を遮ったものとはいったい何でしょうか。
お客さまから低評価を付けられたくない・なんとかトラブルにならずにその場を切り抜けたい・なにより自分が傷つきたくないということすべてが自分本位の考え方であり、お客さまの立場に立っていません。
気付いた店員が勝手に判断して間違いの上塗りをするのではなく、「3秒」でお客さまの席まで行って、「すみません、もう一度ご注文を確認させていただいてもよろしいでしょうか」と聞くことができていたら、そのお客さまは決してお怒りになることなくもう一度快く言ってくれたはずです。
お客さまの方も不安であったと思われるので、その早期の解消にもつながったのです。
そして、社長と旅館で別れ際に「ほかになにかございませんか」と言っていたら、「ヤボな質問だけど、ここの宿泊代はどうなっているの?」と聞かれたことでしょう。
そこで正直に答えていたら、「勝手に予約してしまって申し訳ございません」と一言、「3秒」あったら終わる会話をしていたら、社長も「この地域で一番の旅館を楽しもう」と思って頂けたかもしれません。
しかし、その肝心なことを伝えなかった、お互いに意識していたことは感じていながら、営業マンからの一言がなかったのです。
宿泊料金の大金を払ったことよりも、そのことを黙っていたことに社長は信用を失ったのです。
数千万から億単位の人生をかけた買い物をするのに、もし物件にまだ知らされていない不便な点が隠れているとしたら」とまで考えが及んだのかもしれません。
「ほかに何かございませんか」の「3秒」で終わる一言を出せなかったために、すべての信用を失ってしまうことがあるのです。
逆にその「3秒」を惜しまず、誠意をもってどんな疑問にも答えようとする姿勢が、お客さまの心を掴むのです。
最後のたった一言で顧客に安心感を与えます
人生で大きな買い物といえば、家のほかに車があります。
車は10年おきぐらいで皆さん買い換えを考えられるのでしょうか。
そして、今はひとつのタイプでもいろいろな車種が販売されていて、購入を検討している世帯は、いくつものディーラーを回って見積もりを出してもらい、店員と駆け引きを行いながら検討するでしょう。
「あれも付けたいこれも付けたい、でもサービスしてくれないかな」などと悩んでしまうはずです。
予算面も大事な要素ですが、対応にあたる店員のおもてなし精神も大事な要素になることでしょう。
カーマニアや車いじりが趣味である人でもない限り、車に関してそれほど詳しくないので、こちらが聞いていないことまで丁寧に教えてくれるのは非常に有り難いし、好印象を与えることでしょう。
一方で、聞かないと教えてくれない店員もいて、そういうディーラーの車が本命だったりするケースもあります。
そんなときは、こっちが勉強して必死にいろいろ聞かなければなりません。
そろそろ比較検討も大詰めになってきた頃、ひとつ気になっていることがありました。
その車種の旧型が走行中にボンネットから炎が上がる事故が過去に発生していたのです。
どうしてもそこを確認したかったのですが、なかなか聞けないまま時は過ぎ、もう決定しなければならないとなったとき、向こうからその事故について言及してきました。
それは「すべての車種にあったリコールの不具合ではなく、そのドライバーが自動車整備士で独自に改造しており、それが原因でショートして事故が発生したので、ご安心を」ということでした。
そして、最後に「他に何かございませんか」という一言がちゃんとあったのです。
それを言ったら一気に顧客の購買欲が冷めてしまうかもしれないけれど、もし心配されているのであれば言わないことは不誠実な接客になってしまうと感じていたのです。
こちらが聞く直前に気持ちを察したように説明してくれる姿勢、そして「ほかに何かお聞きになりたいことはありませんか」という言葉は、顧客に安心感を与えます。
プロの営業マンとは
ほんの「3秒」で済む言葉であり、これを言わなかったために、契約に至らなかったという事例もあるのです。
大事な不安要因を隠して販売されるほどこわいものはありません。
命の危険のリスクでもない限り余計なことは言わなくて良いという会社もあるようですが、それを知らずに購入してすぐに故障などするケースも少なくありません。
それを追求にいくと、「初期不良ではなく、あなたの使い方に問題があった」と問題の要因を顧客サイドに押し付ける世界的有名メーカーの日本法人もあるほどです。
世の中の製造メーカーから販売されている商品には、メリットがある代わりに、その裏側として何らかのデメリットが必ずあります。
しかし、販売する側としては、メリットばかりを前面に出し、デメリットにはまったく触れません。
顧客から聞かれて、しぶしぶ答える、それもいかにも杞憂であるかのように矮小化してデメリットを説明する、というか少し触れるといった感じの対応をするのが普通になっています。
これではなかなか売れないのも無理はありません。
顧客は、ある程度自分でもリサーチしていて、商品のメリット・デメリットを知っていることがほとんどです。
しかも、予算は抑えて性能は良いものを購入したのが人情というもの。
店にいけば商品はたくさんあって、どれを選んだらよいのか迷ってしまいます。
お客さまの目線に立って、メリットだけではなく、デメリットもしっかりと伝えた上でサービスを提供するのが、プロの営業マンなのではないでしょうか。
この記事を書いた人
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コールセンターの現場の第一線で日々頑張るスタッフ達が価値ある「リアル」を伝えます。
貴社のご発展に是非、ご活用下さい!
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